米国、AI・半導体の新たな輸出規制を準備 AI拡散規則の代替は見送り

AIチップの輸出を、米国はこれからどう管理するのか

AIの競争力を決めるものは、優れたモデルや大量のデータだけではありません。その計算を支える高性能な半導体を、誰が、どこで、どれだけ利用できるのかも重要です。

米国はこれまで、先端AIチップが中国をはじめとする安全保障上の懸念国へ流れることを防ぐため、輸出管理を繰り返し強化してきました。その政策が、再び新しい段階に入ろうとしています。

米商務省で輸出管理を担当するジェフリー・ケスラー商務次官は、2026年7月14日に開かれた米下院外交委員会の公聴会で、AIと半導体を対象とする規制措置が今後導入されると説明しました。

ただし、今回のポイントは単純な規制強化ではありません。ケスラー氏は同時に、バイデン政権時代の「AI Diffusion Rule」、日本語では「AI拡散規則」などと呼ばれる制度について、これを置き換える計画はないと述べています。

AI拡散規則とは何だったのか

AI拡散規則は、バイデン政権末期の2025年1月に公表された輸出管理制度です。

一定性能以上の先端AI向け半導体に世界規模の輸出許可要件を設けるほか、一部の高性能なクローズドAIモデルについては、モデルの能力を左右する「モデルウェイト」も管理対象に含めていました。

さらに、輸出先となる国や地域をリスクに応じて分け、国ごとに導入できる計算能力の上限を設定する仕組みも盛り込まれていました。

しかし、トランプ政権の米商務省は2025年5月、企業への負担が大きく、同盟国との関係を損なう可能性があるとして、同規則を撤回すると発表しました。当時は、撤回を正式化したうえで、将来は代替規則を出すと説明していました。

「撤回」と「規制緩和」は同じではない

今回、旧規則を置き換えない方針が示されたことで、米国がAIチップの輸出管理を緩めるようにも見えます。しかし、ケスラー氏は同時に、新たな規制措置が準備されていると明言しています。

ここが今回のニュースで最も重要な点です。米国は規制そのものをやめるのではなく、規制の方法を見直そうとしていると考えられます。

旧AI拡散規則は、国ごとの区分や輸出上限を設ける、世界規模の包括的な制度でした。新しい措置では、輸出先の企業、最終用途、データセンターの運営主体、第三国を経由した迂回輸出などを、より個別に審査する方式が採用される可能性があります。

ただし、これは公聴会の内容とこれまでの政策から導ける見立てです。Reutersの記事では、具体的な対象製品、対象国、許可基準、施行時期は明らかにされていません。

なぜ中国が大きな焦点になるのか

公聴会の正式名称は「FY27 BIS Budget: the AI Arms Race and the ICTS Office」です。議論では、米国設計の先端AIチップが中国企業へ渡ることをどう防ぐかが大きなテーマになりました。

特に問題視されているのが、第三国の子会社やデータセンター、半導体製造の委託先などを経由する取引です。書類上の販売先が中国以外であっても、最終的な利用者や計算資源が中国側に提供されれば、輸出管理の目的を十分に達成できない可能性があります。

米商務省は旧AI拡散規則を撤回した際にも、中国製のHuawei Ascendチップの利用リスク、米国製AIチップを使った中国AIモデルの学習、サプライチェーンを通じた迂回への注意を促すガイダンスを発表していました。

日本企業にも関係する理由

このニュースは、米国と中国の間だけの問題ではありません。

半導体は、一つの国だけで完成する製品ではありません。設計、製造装置、素材、製造、組み立て、サーバー、クラウドといった工程が、複数の国や企業にまたがっています。

今回の公聴会では、米国の半導体製造装置に関する輸出管理を、日本やオランダの制度とどのように整合させるかも議論されました。

そのため、次のような企業は特に動向を確認する必要があります。

  • 半導体製造装置や部品、素材を輸出する企業
  • 米国製の先端GPUやAIアクセラレーターを扱う企業
  • 海外でデータセンターやクラウド基盤を運営する企業
  • 中国や東南アジアを含む国際的な販売網を持つ企業
  • 米国の輸出管理規則に基づくコンプライアンスを担当する企業

規制の対象がチップの直接輸出だけでなく、再輸出、最終用途、クラウド経由の計算資源などへ広がれば、日本企業にも確認作業や契約管理の負担が生じる可能性があります。

今後注目したい点

現時点では、「規制措置が出てくる」という方向性だけが示され、制度の全体像は明らかになっていません。

今後は、次の点が焦点になります。

  • 対象となるAIチップの性能基準
  • 中国以外の国や地域も規制対象になるか
  • データセンターやクラウドサービスが対象になるか
  • 第三国を経由した取引に、どの程度の確認義務を課すか
  • 日本やオランダなど同盟国と、どのように制度をそろえるか

また、旧AI拡散規則では国ごとの上限が企業から強く批判されました。新しい制度が安全保障と企業活動の両立をどのように図るのかも重要です。

まとめ

米国は、バイデン政権時代のAI拡散規則をそのまま復活させたり、直接置き換えたりするのではなく、AIと半導体に関する別の規制措置を準備しています。

これは「規制の撤回」から「規制の終了」へ進む動きではありません。むしろ、広範な国別ルールから、企業、用途、輸出先を個別に管理する仕組みへ移行する可能性を示すニュースとして読む必要があります。

日本企業にとっては、新規則の文言だけでなく、日本と米国の輸出管理制度がどのように調整されるかも重要です。規制の対象、発表時期、経過措置が明らかになるまで、慎重に動向を追う必要がありそうです。

2026年7月16日 2:04 AM   投稿者: M.A.   カテゴリー: AI, AI規制

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