自動運転はどこまで実現したのか―レベル5は未達でも、普及が進む理由-自動運転を考える【第3回】
自動運転は、もう実用化されている。ただし、使える場所や条件を限定したレベル4としてだ。人間の運転を広く代替するレベル5が実用化されたと確認できる公開実績は、2026年9月時点では見当たらない。
そして、カメラ映像からAIが運転を判断する路線は、広い範囲での運転支援や、区域を限定したロボタクシーへ進んでいる。しかし、その成果をそのまま「どこでも人の監視なしで走れる車」に置き換えることは、まだできない。
ぼくの見通しを先に書く。今後数年に広がる中心は、対応地域や条件を増やしたレベル4だ。レベル5が数年以内に一般化することを前提に考えるのは早い。一方、レベル5が完成しないから自動運転は普及しない、という見方も現状に合わない。
前回はWaymo、Tesla、Wayveなどの方式の違いを整理した。今回は、2026年9月12日までに確認した公開資料から、何が実現し、何が残り、そこからどんな予測ができるのかを考える。

現在地は「限定無人化」と「広域の運転支援」に分かれている
まず、各社が提供するものを並べてみる。同じ自動運転の話題でも、一般向けの機能と、事業者が管理する移動サービスを分けると、到達点がはっきりする。
| 対象 | 現在確認できる到達点 | そこからは言えないこと |
|---|---|---|
| Waymo | 指定された運行条件の中で、車内の運転手なしに乗客を運ぶ。長距離の運行・事故データを公開 | 未対応の道路や天候を含め、どこでも走れるという証明 |
| Teslaの一般向けFSD(Supervised) | 市街地などを含む運転支援。運転者の継続的な監視が必要 | 購入した車に、運転者の代わりを全面的に任せられること |
| TeslaのRobotaxi | Model YとCybercabを使う配車サービス。提供区域を限定 | 一般向けFSDの無監視化や、区域制限のないレベル5の実現 |
| Wayve | 地域ごとの追加調整をしない500都市での走行試験を発表。ロンドンでは監視付きサービスを開始 | 500都市で無人営業ができること |
| 中国のPony.ai | 無人商用運行を実施し、都市内の対応範囲も拡大 | 中国全域を自由に走れることや、全社的な黒字化 |
出典:Waymo安全性集計、Tesla FSD公式説明、Tesla Robotaxi公式説明、Wayveの500都市試験、Wayveのロンドン開始発表、Pony.aiの企業説明。
この表から、二つのことが言える。運転席に人がいない車は、もう商用サービスとして存在する。その一方で、広い道路網を走れるAIが、その範囲すべてで人の監視を外せる段階に達したわけではない。
「人がいなくても走れる」と「広い範囲を走れる」は、それぞれ進歩している。しかし、その両方を、人間が対応できる道路・環境条件にわたって成立させるレベル5には、まだ届いていない。
レベル4の実用化は、もう疑う段階ではない
Waymoの集計では、2026年3月までのrider-only走行、つまり車内に運転手がいない走行が約2億2,060万マイルに達している。同社は運行地域の人間の運転を基にした比較で、重傷以上を伴う事故率が94%低かったと報告している。対象地域の一般道など、比較条件を伴う同社分析であり、全世界の道路への保証ではない。Waymo Safety Impact
ここで言えるのは、区域を定めた無人運転は、短いデモの成功を競う段階を越えたということだ。条件内で運転手を外せるか、という問題には、すでに実用上の答えが出ている。
中国でも同じ方向の動きがある。Pony.aiは2026年8月の決算発表で、広州の運行範囲を年初から300平方キロメートル超拡大したと報告した。深センでは空港などへの対応も広げている。Pony.aiの2026年第2四半期決算
つまり、「地域限定だから、その外には出られない」という説明は正確ではない。区域の外へ、自由に走り出してよいわけではないが、検証と運行準備を経て区域を広げることは、現実に行われている。
ただし、運行できることと、利益が出ることは別だ。Pony.aiの同四半期のロボタクシー事業売上は約1,210万ドルだった一方、全社営業損失は約6,570万ドルだった。事業売上には運賃以外の収入も含まれる。商用化は始まっているが、持続的な全社黒字化まで済んだわけではない。同決算資料
技術的に成立しているレベル4を、どこまで安く、広く提供できるか。現在の競争の大きな部分は、すでにそこへ移っている。
一般向けFSDでは、今も人の監視を外せない
Teslaの一般向けFSD(Supervised)は、人が継続的に監視する運転支援である。同社自身が、車を完全自律にする機能ではなく、運転者を代替しないと明記している。利用者が寝たり、運転の監視をやめたりしてよい製品にはなっていない。Tesla FSD公式説明
これは「運転が下手」という意味ではない。交差点を曲がり、市街地を進み、多くの操作をこなしても、残る失敗を人が補う構成なら、無人運転とは能力の分担が異なる。
たとえば、人が危険を察知して一度だけ介入し、それ以外はすべてAIが運転したとする。その走行は、運転支援としては有用でも、そのまま人を降ろせる実績ではない。最後の一度を誰が処理するかが変わるからだ。
レベル4では、対応条件の中での運転と、運転を続けられない場合の対応をシステムが担う。レベル2から人の監視を外すには、普段の運転性能だけでなく、この部分も車側へ移す必要がある。NHTSAのレベル説明
一方、Teslaは別枠でRobotaxiを提供し、公式案内にはModel YとCybercabが掲載されている。サービスは指定区域内に限られる。したがって、「Teslaはすべてレベル2のまま」も、「Cybercabがあるから一般向けFSDでも人が不要」も、どちらも不正確だ。Tesla Robotaxi公式説明
ここで内部開発の事情まで断定することはできない。一般向けFSDで監視が残る理由のうち、技術、検証、制度、事業上の判断が、それぞれ何割なのかは公開資料ではわからない。ただ、提供されている製品として、広域の無監視運転に移行できていないことは明確だ。規制が外れればそのまま完成する、と判断できる根拠もない。
初めての町を走るAIは、すでに試験段階にある
では、場所ごとに作り込まなければ走れない問題は、解け始めているのか。この点では、Wayveの試験が具体的な材料になる。
同社は、欧州、北米、アジアの500都市で、同じモデルを地域ごとに追加調整せず、高精度地図に依存せずに走らせたと発表している。これが示すのは、地域を越えて運転能力を応用する「汎化」が、構想だけではなく、実車で試される段階にあることだ。Wayve Global Road Trip
しかし、同社が2026年9月3日にロンドンで始めたサービスには、訓練を受けた運転手が同乗して監視する。500都市の試験を、そのまま500都市の無人営業能力と読むことはできない。Wayveの開始発表
現在地は、かなりはっきりしている。新しい場所にも応用できる走行能力は実証が進んでいる。しかし、その広い範囲で、人の介入なしに失敗処理まで任せられる商用能力は、同じ実績からは確認できない。
ここを混同すると、楽観論も慎重論も極端になる。汎化が始まっているのに「地域ごとに一から教えるしかない」とするのは古い見方だ。一方、応用して走れたのだから「もう人間の代わりになる」とするのは、一段階飛ばした評価になる。
残っているのは、道路の暗記より、条件が変わったときの崩れ方だ
初めての都市でも、道路や標識が学習済みのものと似ていれば走れる。難しいのは、いつもなら通れる場所に見慣れない障害物がある、工事の配置が違う、周囲の人が通常と違う動きをするといった場合だ。
2026年4月公開の研究「Fail2Drive」は、この問題を具体的に調べている。運転シミュレーター内で、障害物の外観や配置、周囲の振る舞いなどを変更すると、評価した7つの学習モデルすべてで性能が低下した。中には、障害物の情報が与えられていても適切に停止できない例があった。Fail2Drive論文
この研究はTeslaやWaymoの商用システムを測ったものではない。実車の事故率も示さない。それでも、「物体が見える」と「状況に応じて正しく運転できる」は別問題であることがわかる。
これはカメラだけの弱点でもない。センサーを増やして障害物の存在がわかっても、AIがその情報を行動に反映できなければ衝突する。逆に、判断能力が高くても、汚れなどで必要な情報そのものが取れなければ、推論だけでは埋められない。
したがって、レベル5へ進む条件は、単に学習量を増やすことではない。見慣れない状況でも危険を見落とさず、情報が足りないときには無理に進まない動作まで、広い条件で安定させることだ。現在の公開実績は、その条件を満たしたところまでは届いていない。
例外を一つずつ潰すだけなら遅い。改善が共通化すれば速くなる
それでも、ぼくが広域化に前向きなのは、開発が例外の手作業追加だけで進んでいるわけではないからだ。
Pony.aiはPonyWorld 2.0で、走行場面を再構成・編集し、まれな状況を生成して学習や評価に使う仕組みを説明している。実車が同じ危険に遭遇するのを待たずに、類似条件をまとめて試す方式である。PonyWorld 2.0の技術説明
この方式で、たとえば特定の障害物への対応が「その物体だけを避ける」修正に終われば、別の物体でまた失敗する。一方、「進路を塞ぐものを避ける・止まる」という能力の改善になれば、多くの地域に同時に効く。
今後の速さを分けるのはここだ。場所ごとの修正が残る部分は、展開するたびに手間がかかる。共通の能力で解ける部分が増えるほど、都市数と同じ割合で開発人員を増やす必要は薄れる。
ただし、仮想環境が現実の弱点を再現できていなければ、その中での好成績は役に立たない。シミュレーションは学習と試験を速くする手段であって、レベル5の完成証明そのものではない。
カメラ中心の方式が成功しても、Waymoが直ちに袋小路になるわけではない
カメラ中心のAIが、地域ごとの準備を少なくして広い範囲を無人で走れるようになれば、重い現地準備を必要とする方式は不利になる。これは十分に筋の通った予測だ。特に一般向け乗用車へ大量に載せる場合、追加機器や整備の費用を抑えられる価値は大きい。
ただ、現状のWaymoを、地図に書かれた通りに走るだけの技術として捉えると、予測を誤る。
Waymoは2026年8月の技術説明で、高精度地図を追加の情報源として使い、少数の大きな基盤モデルで判断能力を高める構成を説明している。AIによる運転判断に加え、独立した車載検証の層も置く。地図を使う方式の中でも、AIの進歩を取り込んでいる。Waymoの技術説明
つまり、Tesla側だけが汎化して、Waymo側の展開費用が永久に変わらないとは想定できない。
Waymoが事業上の袋小路になるのは、競合が同等以上の安全性と運行の安定性を、より低い総費用で実現し、Waymo側がその差を縮められない場合だ。カメラ中心のAIが走れたことだけでは、この条件は成立しない。
ぼくの現時点の判断は、Waymo方式の行き詰まりはまだ確認できず、地図への依存が少ない方式の費用優位も、広域無人運転の総費用では決着していない、というものだ。今後は純粋な二者択一より、各社が学習、地図、追加の安全機構を組み合わせて競う展開を本命と見る。
今後数年の本命は、制限を減らしたレベル4だ
ここまでの現状から、ぼくは2028〜2031年ごろまでを、次のように予測する。企業の公約ではなく、公開された到達点に基づく筆者の見通しである。
| 予測 | 判断 | 現状からそう考える理由 |
|---|---|---|
| ロボタクシーの都市数と運行範囲が増える | 本命 | 限定無人運転は実用化済みで、区域拡大も実績がある |
| 地域ごとの調整を減らすAIが、レベル4の展開を速める | 有力 | 都市を越える走行試験と、共通モデルによる開発が進んでいる |
| 自家用車でも、一定条件下で人の監視を外せる用途が増える | 有力だが、地域・車種・条件の差は残ると見る | 商用無人運転という先行実績はあるが、一般向け機能への移行は別の検証を伴う |
| 普通の乗用車が、人間の運転できる条件に広く応じるレベル5として一般化する | この期間の本命には置かない | 広域の応用力と無人運転の信頼性を、広い条件で同時に満たした公開実績がない |
レベル5が不可能だという結論ではない。数年で到達する予測より、制限を一つずつ減らしたレベル4が先に広がる予測のほうが、現在の実績から説明しやすいという判断だ。
そして、地域の制限があることと、利用価値が小さいことは同じではない。自宅と病院と駅が運行範囲に入れば、その人の主要な移動を代替できる。人間が運転できるすべての条件を解かなくても、一定の需要を満たすことはできる。すでに営業しているロボタクシーは、その形で成立している。
ぼくは、自動運転の普及には楽観的だ。しかし、その楽観は「もうすぐ何でもできるAIが完成する」ことには置かない。無人運転という実績があり、区域拡大も起き、地域を越えるAIの応用も進んでいる。この三つがあるので、利用できる移動は今後増えると判断する。
2026年9月の現在地は、限定条件下の無人運転は実用段階、広域への応用は進展中、レベル5は未達である。次の数年は、その中間にある広いレベル4の市場が育つ時期になる、というのがぼくの結論だ。
次回は日本で、その市場が広がるのを何が妨げているのかを考える。制度の問題、技術上の条件、運行費用を分ければ、「日本は規制が厳しいから遅れている」という説明だけでは足りない理由も見えてくる。