自動運転を考える

日本の自動運転は、どこで止まっているのか―自動運転を考える【第4回】

日本の自動運転は、レベル2の運転支援は市販車で使える一方、レベル4の無人運転は、小規模で条件を絞った導入から、交通事業として広げる途中にある。米国や中国の先行事業者のように、多数の車を日常的に動かして無人走行の実績を大量に蓄積する段階には、国内の公開実績を見る限り届いていない。

日本の遅れを、ぼくは「事故ゼロを要求する国民性」のせいとは判断しない。政府は普及を支援しており、安全基準も、あらゆる事故が絶対に起きない証明を求めるものではない。最大の障害は、利用者が必要とする移動を、人の運転なしに、継続できる費用で提供する能力を大規模に成立させられていないことだ。

今回は2026年9月13日までに確認した資料から、現在地と見通しを端的に整理する。数字には必ず集計時点を付け、政府の目標と、達成済みの実績は分ける。

最初に、今回の答えを並べる

問い 現時点の答え
日本でレベル2はどこで使えるか 市販車では高速道路・自動車専用道路向けの支援が代表的。一般道の機能や実証もあるが、対応範囲は製品ごとに異なる
レベル4はどうなっているか 導入実績はある。ただし、限定区間、小規模運行、実証と日常運行の違いが大きい
最大のネックは何か 必要な移動を端から端まで無人化できる範囲と、その運行を維持できる費用が、まだかみ合っていないこと
世界と何が違うか 米中の先行事業者との主要な差は、レベルの名前より、無人で走る範囲と日常の運行規模
政府は止める方向か 政策は拡大促進。安全の確認を残しながら、導入支援、量産、運行の省人化を進める方向
日本人は反対なのか 安全とトラブル対応への不安は強いが、全面反対ではない。米国でも慎重な回答は多い
事故ゼロでないと導入できないか あらゆる事故ゼロが許可の条件、という理解は不正確。ただし防止可能な人身事故への厳しい要求はある
費用対効果は障壁か 大きな障壁。運転席から人が消えるだけでは、総費用は十分に下がらない
今後どうなるか 2027年度以降の事業化・量産計画を経て、2028〜2031年は用途ごとのレベル4拡大が本命。全国一斉の無人化は見込まない

以下で、各判断の根拠を書く。

日本のレベル2は、すでに使える。ただし「どこでも自動運転」ではない

レベル2は、車がハンドル操作と加減速を支援するが、人が周囲を監視し、必要な操作を担う段階だ。日本でも、市販車に搭載されている。

日産のプロパイロット2.0は、高速道路のナビ連動走行や、同一車線でのハンズオフに対応する。ただし、運転者が前方に注意し、直ちに操作できることが条件だ。手を離せることは、運転の監視をやめられることを意味しない。日産の技術説明

トヨタのアドバンスト ドライブ(渋滞時支援)も、高速道路・自動車専用道路の対応区間で、一定の条件下に渋滞時の運転を支援する。対応道路は公式に案内されている。トヨタの対応道路案内

一般道にも、対応機能や自動運転サービスの実証はある。上士幌町の循環線の公式案内は、車内にオペレーターを配置するレベル2として説明している。ただし、同町は別途、2026年6月20日からの車両メンテナンスによる運休を告知している。紹介ページがあることと、確認日に乗れることは別だ。上士幌町の運行案内運休告知

したがって、「日本ではレベル2もできない」は誤りだ。一方、「レベル2なら日本中の一般道で目的地まで自動で走れる」も誤りになる。レベルは人とシステムの役割分担を示す分類であり、対応道路を保証する表示ではない。

日本の代表的な市販機能の現在地は、高速道路など条件を絞った運転支援だ。日常の市街地移動全体をAIに任せる能力とは、分けて考える必要がある。

レベル4は導入済みだが、大規模に実績を積む段階には達していない

国土交通省の2026年1月29日の資料は、2025年11月時点のレベル4運行開始地域として、永平寺町、大田区、上士幌町、多気町、松山市、塩尻市、日立市、大阪市の万博、柏市を挙げ、実装地域を9か所と整理している。国土交通省「自動運転の普及・拡大に関する取組」

これは2026年9月の稼働地域数ではない。過去に開始した地域を含む実績であり、現在も同じ形で継続しているとは限らない。

実際、永平寺町は、車両とシステム等の保証・保守期間の満了に伴い、2026年4月から当面運休と案内している。上士幌町にはレベル4の実証歴があるが、町内循環線の日常の案内はレベル2だ。永平寺町の告知上士幌町の案内

運行範囲も限定される。RoAD to the L4の紹介時点では、日立市の路線全体約8.6キロメートルに対して、レベル4は専用道の約6.1キロメートル。塩尻市の掲載事例でも、レベル4区間とそれ以外を区別している。国内事例一覧

ここからの結論は、「実績がほとんどない」ではなく、「限定された実績はあるが、広い範囲の日常的な無人運行を大量に積む段階にはまだ至っていない」だ。短い区間を反復しても、その区間の信頼性は学べる。しかし、複雑な市街地や多様な乗降場所に対応する経験まで、自動的に増えるわけではない。

なお、国土交通省は2026年8月に37事業への導入支援を決定した。これは今後のレベル4実装を支援する事業数であって、37地域で無人営業が始まった数字ではない。2026年度の公募結果

最大のネックは、路線全体の無人化と採算がつながらないことだ

最大の障害を一つにまとめるなら、ぼくは「交通事業として使える無人運転の範囲が狭いこと」を挙げる。これは技術上の制約であると同時に、費用対効果の問題でもある。

駅から病院までの路線で、途中だけレベル4になっても、駅前と病院前で運転者の操作が必要なら、同じ運転者が全区間に乗る運用では拘束時間が大きく減らない。自動化率が高く見えても、運転者を必要とする便数は変わらないことがある。

車内無人にできても、一台ごとに遠隔担当者を置き、さらに現地対応者を確保するなら、人件費の削減は限定的になる。車両、センサー、通信、保守などの費用が加わるので、有人交通より安くなる保証はない。

費用対効果を改善する条件は明確だ。必要な区間全体を自動で運行できること、少ない人で複数台を支えられること、車両と保守の費用を抑え、十分に稼働させることだ。この組み合わせができない運行では、自動運転を導入しても大幅な省人化は難しい。

すべての案件で技術が最大要因だと証明する全国集計はない。しかし、国内の区間構成と費用構造から、ぼくはここを最大の事業上の障害と判断する。申請書を簡単にするだけでは解けない部分だ。

米国・中国との差は、道路の難しさだけではなく運行規模にある

米国や中国も、どこでも走れるレベル5が普及しているわけではない。先行するロボタクシーも、地域や条件を限定した運行だ。それでも、日本との差は大きい。

Waymoは、2026年3月までの車内運転手なしの走行を約2億2,060万マイルと公表している。Pony.aiは、2026年6月末の世界全体のロボタクシー車両数を1,975台と報告し、広州の運行範囲拡大などを公表している。ただし、後者の台数がすべて同じ条件で無人稼働しているという意味ではない。Waymoの安全性集計Pony.aiの2026年第2四半期決算

日本との違いは、「レベル4と呼べる車があるか」から先にある。先行事業者は、広めの運行区域、多数の車両、配車、整備、利用者対応を事業としてまとめている。運行を増やすことで実績を集め、その実績を基に運行を広げる循環ができている。

日本の小規模な固定区間の導入では、この循環が小さい。地域ごとに準備し、少数の車を動かす形では、開発や保守の負担を大きな車両群に分散しにくい。

狭い道路、歩行者、自転車、天候は難しい問題だが、「日本の道路だけが特別で、海外方式は原理的に使えない」とまで言える根拠はない。東京でWaymoが日本交通とGOと検証を進めていることも、その可能性を確かめる取り組みだ。ただし、確認時点の公式FAQでは、東京の一般利用者向けサービスは未提供で、乗員が運転席にいる検証段階にある。Waymoの日本向けFAQ

「世界は進んだ」と一括りにするのも正確ではない。比較対象は主に米中の先行事業者であり、その規模に日本が追いついていないという話だ。

政府は、抑制より拡大促進へ進んでいる

政府の政策方向は、かなり明確だ。レベル4を止める方向ではなく、実装地域と車両数を増やす方向にある。

2026年1月の国土交通省資料は、2027年度までに無人自動運転移動サービスを100か所以上で実現する政府目標に加え、第3次交通政策基本計画で2030年度の自動運転サービス車両数を1万台とする目標を示している。対象は公共交通や幹線輸送などのサービス車両であり、自家用車を含むすべての自動運転車の台数ではない。政府目標の説明

同資料は、より高度なレベル2市販車の普及による機器の低廉化を、商用レベル4の開発・普及につなげる方針も示す。高度なAIを使う市販車と、地域限定の無人サービスを、別々の話として切り離していない。

実際の支援もある。2026年8月の37事業への交付決定は、2027年度までのレベル4社会実装を計画する事業を対象としている。国土交通省の決定

制度運用では、安全性と運行体制の確認を残しながら、審査の明確化や事例共有を進める方向と読むのが妥当だ。事故原因究明体制や安全ガイドラインの具体化も政府方針に含まれる。全面的に許可を不要にするという方向ではない。

ぼくの予測は、今後は「実証をした数」より「実際に無人運行を継続できる事業」への政策上の圧力が強まる、というものだ。ただし、100か所や1万台は達成済みの実績ではない。目標が強いことと、計画通り実現することは別である。

日本人は慎重だが、全面反対ではない。米国も慎重だ

日本の世論を、「新技術に反対する人がほとんど」とまとめるのは資料に合わない。

MM総研の2026年6月の全国3,000人へのWeb調査では、自動運転タクシーへの懸念として安全性を挙げた人は48.6%、トラブル発生時の対応は36.5%だった。不安は現実にある。一方、乗車経験者では、人の運転と同程度以上に信頼できると答えた割合が76.9%、未経験者では42.7%だった。MM総研の調査

この差から「一度乗れば誰でも賛成する」とは言えない。もともと関心や信頼が高い人ほど乗っている可能性があり、経験の効果だけを取り出した調査ではない。それでも、日本人の評価が一様ではなく、経験の有無で大きく違うことはわかる。

PwCの2025年9月の5か国調査では、AIによる自動運転への信頼が日本とドイツでは低めで、中国とインドでは高い傾向だった。しかし、否定的な回答は米国で54%と多かった。各国500人のオンライン調査で、レベル3以上の自動運転を対象とした質問であり、国内ロボタクシーへの評価と完全に同じではない。PwCの国際比較調査

結論は、安全と事故・トラブル対応を心配し、利便性や交通の維持には期待する層がいる、ということだ。日本だけが特別に慎重だから事業が成立しない、と説明するのは無理がある。米国では慎重な世論があっても、先行サービスは運行を拡大している。

「事故ゼロでないと導入できない」は、本当か

制度上、あらゆる事故が絶対に起きないことを証明しないと導入できない、という意味なら誤りだ。

国土交通省の2024年のレベル4安全ガイドラインは、システムが引き起こす人身事故のうち、合理的に予見される防止可能な事故が生じないことを求めている。2018年のガイドラインには人身事故ゼロの社会を目指す目標があるが、社会の目標と、個々の車両に無限の安全証明を求めることは違う。2024年の安全ガイドライン2018年の策定発表

ただし、この基準を軽く見てもいけない。平均的な事故率が人間より低ければ、既知の防止可能な人身事故が残っていてもよい、という説明にはならない。どの危険を予見し、どう回避するかを車両と運行条件に即して示す要求は厳しい。

世論についても、安全性を懸念する回答を、そのまま「一件の事故も許さない人」と数えることはできない。前述の調査は、国民の多数が絶対的な事故ゼロを導入条件にしていることを示してはいない。

したがって、「日本は事故ゼロ主義だから普及できない」という説明は、制度と世論の両方で単純化しすぎている。事故への批判や中断が起きる可能性はあるが、それが全国の普及の最大要因だとする証拠は、今回の資料では確認できない。

費用対効果は、大きな障壁である

ここは明確に言える。費用対効果は大きな障壁だ。ただし、自動運転だから必ず高いまま、という意味ではない。

現状では少数導入の車両、地域ごとの調整、遠隔・現地の人員、継続保守を含めた総費用が問題になる。利用者が少なければ、一回の移動で負担する費用は高くなる。地方で必要性が大きいことは、運賃収入が多いことを意味しない。

永平寺町の保証・保守期間の満了による運休は、運転能力の実現だけで継続条件が整うわけではないことを示す。ただし、町の告知を運行赤字の証明に読み替えてはいけない。永平寺町の告知

費用が下がる道筋もある。量産で車両や機器を安くし、共通AIで現地調整を減らし、一人で複数台を支え、稼働を増やす。逆に、小規模で、対応条件が狭く、人員も減らないままでは、大きな費用優位は出にくい。

公費を使う場合は、運賃だけの黒字化とは別に、同じ公費でバスや乗合タクシーより移動を増やせるかを比べることになる。補助金があるから成功とも、補助金が必要だから失敗とも言えない。

今後の本命は、実証の追加から、事業としての無人化への移行だ

ぼくは、2027年度以降の事業化・量産計画が実際の運行に移るかどうかを、日本の次の分岐点と見る。政府の資料にもこの時期の計画が示されているが、販売や営業が確実に予定通り始まる保証ではない。国土交通省の計画整理

2028〜2031年までの予測としては、施設内や明確な需要のある固定路線での無人化は増える。都市型ロボタクシーも一部地域で事業化が進む可能性が高いと見る。一方、全国の地方で、低運賃・随時・玄関先までの無人送迎が一気に成立するとは予測しない。広域対応と低い需要が重なり、AIの改善だけでは費用を解き切れないからだ。

日本が変わるために必要なのは、レベル4という名称を増やすことではない。必要な移動全体を任せられる範囲を広げ、多数の車を日常的に動かし、実績と費用改善を次の展開へつなげることだ。現在の日本は、その循環を大規模に作れていない。

それでも、政府は推進側へ動き、運転支援の高度化と商用無人運転をつなぐ方針もある。ぼくは普及には前向きだが、進む速さは用途と地域で大きく違うと判断する。次の数年は「走行を実現した」と「交通として継続できた」の差が、これまで以上にはっきりする時期になる。

次回は、こうした運転AIの進歩が家庭用ロボットにもつながるのかを考える。

2026年9月15日 12:58 AM   投稿者: M.A.   カテゴリー: AI, 自動運転, 近未来

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