AIの技術をやさしく説明する

エージェントAIとは何か――AIが「答える」だけでなく「行動する」仕組みをやさしく理解する

前回は、「マルチモーダルAIとは何か」について説明しました。

マルチモーダルAIとは、文章、画像、音声、動画など、複数の種類の情報をまとめて扱えるAIです。AIは、文章を読むだけでなく、画像を見たり、音声を聞いたり、動画を理解したりできるようになってきました。

では、その次にAIはどこへ進むのでしょうか。

最近注目されている考え方の一つが、エージェントAIです。これまでの生成AIは、基本的には人間から質問や指示を受け、その場で答えを返すものでした。エージェントAIは、そこから一歩進みます。一言でいうと、エージェントAIとは、与えられた目的に向かって、必要な作業を考え、ツールを使いながら行動するAIです。

エージェントAIとは何か

「エージェント」という言葉には、「代理人」「代わりに行動する人」といった意味があります。

AIの世界でいうエージェントは、人間から目的を与えられたあと、その目的を達成するために必要な作業をある程度自分で考え、実行する仕組みを指します。たとえば、普通の生成AIに次のように頼んだとします。「来週の大阪旅行の予定を考えてください。」通常のAIなら、おすすめの観光地や日程案を文章で出してくれるでしょう。

一方、エージェントAIでは、さらに次のような作業を組み合わせることが考えられます。

  • 旅行の日程を確認する
  • 現地の天気を調べる
  • 移動時間を調べる
  • 候補のホテルを探す
  • 営業時間を確認する
  • 条件に合う予定を組み立てる

つまり、単に「答えを文章で作る」だけでなく、目的達成に必要な行動を組み合わせるところがエージェントAIの特徴です。

普通の生成AIと何が違うのか

普通の生成AIとエージェントAIは、同じ大規模言語モデルを利用することもあります。大きな違いは、AIがどこまで行動できるかです。

種類 主な役割
通常の生成AI 質問や指示に対して回答を生成する 文章を書く、要約する、相談に答える
エージェントAI 目的に必要な手順を考え、ツールを使いながら作業する 検索、情報整理、比較、外部システムの操作など

たとえば、「明日の東京の天気は?」と聞かれたとします。通常の言語モデルは、自分の学習済みの知識だけでは、明日の天気を正確には知りません。しかし、天気情報を取得するツールを使えるAIなら、外部サービスから現在の予報を取得し、その内容をもとに答えることができます。このように、AIが外部の道具を使えることが、エージェントAIではとても重要になります。

エージェントAIは「有能な助手」に似ている

エージェントAIは、人間の助手にたとえるとわかりやすいです。たとえば、上司が助手に次のように頼むとします。「来月の会議の日程候補を3つ出しておいて。」優秀な助手なら、ただ「わかりました」と答えるだけではありません。関係者の予定を確認し、空いている日時を探し、会議室の状況も確認し、候補を整理して上司に報告します。つまり、一つの依頼を複数の作業に分解しています。

  • 依頼の目的を理解する
  • 必要な情報を考える
  • 情報を調べる
  • 条件を比較する
  • 結果をまとめる

エージェントAIも、このように目的を小さな作業に分解しながら進めることがあります。

エージェントAIの基本的な流れ

エージェントAIの仕組みはさまざまですが、基本的な考え方を簡単にすると次のようになります。

  • 人間から目的を受け取る
  • 何をすればよいか考える
  • 必要なツールを選ぶ
  • ツールを使って情報を取得したり作業したりする
  • 結果を確認する
  • 必要なら次の作業を行う
  • 最終的な結果を人間に返す

たとえば、「今日届いた問い合わせメールを整理してください」という目的が与えられたとします。エージェントAIは、メールを読むためのツールを使い、問い合わせ内容を分類し、重要度を判断し、返信が必要なものをまとめる、といった作業を行うことが考えられます。つまり、エージェントAIには「考える」だけでなく「行動する」仕組みが必要です。

エージェントAIに必要なもの

エージェントAIを作るには、大規模言語モデルだけでは足りません。

いくつかの仕組みを組み合わせる必要があります。

要素 役割
大規模言語モデル 目的を理解し、次に何をするか考える
ツール 検索、計算、メール、カレンダーなど外部の作業を行う
記憶・状態管理 途中まで何をしたか、必要な条件などを管理する
ルール・権限 何をしてよいか、何をしてはいけないかを決める
確認の仕組み 結果が正しいか、次に進んでよいかを確認する

特に重要なのがツールです。

AIが文章だけを出力できても、実際の作業を進めることはできません。外部サービスとつながることで、AIはより多くのことができるようになります。

エージェントAIが使う「ツール」とは何か

ここでいうツールとは、AIの外にある機能やサービスのことです。

たとえば、次のようなものがあります。

  • Web検索
  • 天気情報の取得
  • 電卓
  • データベース検索
  • メールの読み書き
  • カレンダーの確認
  • ファイルの読み込み
  • プログラムの実行
  • 社内システムへのアクセス

AI自身が天気を観測したり、メールサーバーの中身を直接知っていたりするわけではありません。必要なときに、そうした外部のツールを呼び出して使います。この「AIが外部の機能を呼び出す」仕組みは、次回説明するFunction Callingとも深く関係しています。

エージェントAIは自分で計画を立てる

エージェントAIの大きな特徴の一つが、目的を複数の作業に分けることです。

たとえば、「新商品の競合調査をしてください」という依頼を考えてみましょう。

この仕事には、いくつもの作業があります。

  • 競合商品を探す
  • 商品の特徴を調べる
  • 価格を調べる
  • レビューを確認する
  • 違いを整理する
  • 結果をレポートにまとめる

人間なら、こうした手順を考えてから仕事を進めます。エージェントAIでも、目的を達成するために必要な手順を考え、順番に実行することがあります。この「計画する力」が、普通の質問応答AIとの大きな違いです。

エージェントAIは途中で結果を確認する

エージェントAIでは、一度計画したら最後までそのまま進むとは限りません。途中の結果を見ながら、次の行動を変えることがあります。たとえば、旅行プランを作っている途中で、行きたかった施設が休館だとわかったとします。その場合、別の施設を探す必要があります。

このように、

  • 行動する
  • 結果を見る
  • 次に何をするか考える
  • また行動する

という流れを繰り返します。これは、人間が仕事を進めるときにもよく行っていることです。

エージェントAIと推論モデルの関係

エージェントAIには、これまで説明した推論モデルも重要です。ツールがたくさんあっても、どのツールをいつ使うべきか判断できなければうまく動きません。たとえば、旅行の予定を作る場合でも、先に天気を見るのか、ホテルを探すのか、移動時間を調べるのかを考える必要があります。複雑な目的では、条件を整理し、手順を考える力が必要です。そのため、推論能力の高いモデルは、エージェントAIと相性がよい場合があります。つまり、推論モデルが「どう進めればよいか考える頭脳」だとすれば、ツールは「実際に仕事をする手や足」のような関係です。

エージェントAIとRAGの関係

RAGも、エージェントAIの一部として使われることがあります。

たとえば、社内規則について判断する必要がある場合、エージェントAIがRAGを使って必要な社内文書を検索し、その内容をもとに次の行動を決めることができます。>つまり、エージェントAIは、これまで説明してきたさまざまなAI技術を組み合わせる仕組みにもなります。

  • 大規模言語モデル:文章を理解し、判断する
  • 推論モデル:複雑な問題を整理する
  • RAG:必要な資料を探す
  • ベクトル検索:意味の近い情報を探す
  • マルチモーダルAI:画像や音声などを扱う
  • Function Calling:外部ツールを呼び出す

このように考えると、エージェントAIは、それまで学んできた技術をまとめて実際の作業に使う段階とも言えます。

エージェントAIでできること

エージェントAIには、さまざまな使い方が考えられます。

分野 できることの例
事務 メール整理、資料作成、予定調整
カスタマーサポート 問い合わせ内容の確認、資料検索、回答案作成
調査 情報収集、比較、要約、レポート作成
プログラミング コード確認、テスト、エラー修正、ファイル編集
営業 顧客情報整理、提案資料の準備、フォロー対象の整理
旅行 交通・宿泊・天気・営業時間を調べて予定を作る

これまで人間が複数のソフトを行き来しながら行っていた作業を、AIがまとめて支援することが期待されています。

完全自動と人間の確認は別の話

エージェントAIという言葉から、「AIが全部勝手にやってくれる」と想像するかもしれません。しかし、AIが行動できることと、すべてを自動で任せてよいことは別です。たとえば、AIがメールの返信文を作ることと、そのメールを勝手に送信することには大きな違いがあります。

AIが商品を探すことと、勝手に購入することも違います。

AIが予定候補を作ることと、本人の確認なしに予定を確定することも違います。

行動の影響が大きいほど、人間の確認が重要になります。

エージェントAIの危険性

エージェントAIには便利さがある一方で、新しいリスクもあります。普通の生成AIが間違った文章を出しただけなら、人間が読んで修正できます。しかし、エージェントAIが間違った判断をもとに実際の操作を行えば、影響が大きくなる可能性があります。

たとえば、

  • 間違った相手にメールを送る
  • 必要なファイルを削除する
  • 誤った情報をシステムに登録する
  • 不要なサービスを申し込む
  • 機密情報を誤った場所へ送る

といった問題が考えられます。そのため、エージェントAIでは「何ができるか」だけでなく、「どこまでやらせるか」の設計が非常に重要です。

権限を必要最小限にする

エージェントAIを安全に使うための基本の一つが、権限を必要最小限にすることです。たとえば、AIに予定表を確認させたいだけなら、予定表を読む権限だけを与えればよいかもしれません。予定を書き換える必要がなければ、変更権限まで与える必要はありません。

メールでも同じです。メールの内容を整理するだけなら、メールを読む権限だけで十分です。送信する権限まで与えると、AIが誤ってメールを送るリスクが増えます。人間の社員でも、仕事に必要な権限だけを与えるのが安全です。AIエージェントも同じ考え方が必要です。

重要な操作では人間が確認する

もう一つ重要なのが、人間による確認です。

たとえば、次のような操作では、AIが勝手に実行せず、最後に人間へ確認を求める仕組みにすることが考えられます。

  • メールの送信
  • ファイルの削除
  • 商品の購入
  • 契約や申込み
  • 予定の確定
  • 外部への情報送信

AIにすべて任せるのではなく、AIが準備し、人間が最後に確認する。この形は、エージェントAIを現実の仕事で使ううえで重要になります。

エージェントAIは「自律型AI」と同じなのか

エージェントAIについて調べると、「自律型AI」という言葉が出てくることがあります。エージェントAIには、ある程度自分で次の行動を決めるという意味で、自律的な部分があります。ただし、「自律」といっても、人間から完全に独立した存在という意味ではありません。通常は、人間が与えた目的、利用できるツール、許可された権限、決められたルールの中で動きます。つまり、エージェントAIは自由に何でもできるAIではありません。どの範囲で行動できるかは、システムを作る側が決めます。

複数のAIエージェントが協力する仕組み

さらに進んだ考え方として、複数のAIエージェントを組み合わせる方法もあります。

たとえば、一つのAIがすべての作業をするのではなく、役割を分けます。

  • 調査を担当するAI
  • データを分析するAI
  • 文章を書くAI
  • 内容をチェックするAI

人間の会社で部署や担当者を分けるのと少し似ています。このような仕組みは、マルチエージェントと呼ばれることがあります。ただし、AIを増やせば必ず性能が上がるわけではありません。AI同士の役割分担や情報共有が複雑になるため、かえって間違いが増えることもあります。

エージェントAIが注目される理由

生成AIが登場したことで、AIは自然な文章を作ったり、人間の指示を理解したりできるようになりました。しかし、文章を出すだけでは、仕事の一部しかできません。実際の仕事では、情報を探し、ファイルを開き、計算し、別のシステムへ入力し、結果を確認する、といった複数の作業があります。エージェントAIは、生成AIをこうした実際の作業につなげる考え方です。そのため、AIの活用範囲を大きく広げる可能性があります。

エージェントAIを理解するとAIの未来が見えてくる

これまでの生成AIは、主に「質問すると答える」という形でした。

エージェントAIでは、人間が「目的」を伝え、AIがその目的に必要な作業を進める形に変わります。

たとえば、これまでは人間が、

  • 検索する
  • 結果を読む
  • 表にまとめる
  • 比較する
  • 文章を書く

という作業を一つずつ行っていました。

将来的には、「この商品について競合調査をして、比較表とレポートを作って」と目的を伝えるだけで、AIが必要な作業を組み合わせる場面が増えるかもしれません。つまり、AIとの付き合い方が「一つずつ命令する」形から、「目的を伝えて仕事を任せる」形へ変わっていく可能性があります。

まとめ

エージェントAIとは、人間から与えられた目的に向かって、必要な作業を考え、ツールを使いながら行動するAIです。普通の生成AIが質問に対して文章を返すことを中心としているのに対し、エージェントAIは検索、計算、ファイル操作、メール、カレンダーなどの外部ツールと連携して作業を進めます。エージェントAIは、目的を理解し、必要な手順を考え、実行結果を確認しながら次の行動を決めることがあります。そのため、調査、予定調整、カスタマーサポート、プログラミング、事務作業など、さまざまな仕事への応用が期待されています。

一方で、AIが実際に行動できるようになるほど、間違ったときの影響も大きくなります。そのため、必要最小限の権限だけを与えること、重要な操作では人間が確認すること、ログを残すことなど、安全な設計が重要です。エージェントAIは、AIを「質問に答える道具」から、「目的に向かって仕事を進める道具」へと広げる技術です。

次回は、「Function Callingとは何か」について説明します。

Function Callingは、AIが検索、計算、メール、データベースなどの外部機能を呼び出すための重要な仕組みです。エージェントAIがどのようにして「行動」できるのか、その裏側をやさしく見ていきます。

2026年8月25日 3:17 AM   投稿者: M.A.   カテゴリー: AI

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